-手織りとの暮らしを始めるまで-

-糸、売ってます。-

ミシン糸や刺繍糸しか見たことのなかった僕は、いわゆる工業用の糸、のようなサインも相まって気の向くままにそのお店へ足を運びます。
吉祥寺の商店街に面したマンションの3階。
表からは見えないそのロケーションも心を踊らせる。
少し空いたドアから漏れる光に導かれて入ったそこで目に飛び込んできたのは、糸より先に織機でした。
そこは糸屋さんではなく、手織工房だったのです。
そこで、手織りのこと、糸のこと、表現に対する考え方のこと、色々と話を聞き、一気に好奇心に火がついた僕は、日を改めて手織り体験に向かったのでした。
その後、織ってみたら気がつくこと、感じること、初めて知ること、多々、多々。
一番に感じたことといえば、「手織りってこんなに自由なものだったの!?」ということでしょうか。
なんとなーく思っていた「手織りってこんなもの」というイメージ(思い込み)がどんどん無くなっていき、その面白さと可能性にのめり込んで行きました。
もともと服好きだった僕は、自分が織ったマフラーを巻いているだけで、なんだか特別な自分になれたような気がして、それこそ、誰にもできない自分だけのファッションを見つけられたような気がして、とても嬉しかったのです。
その後は、時間があれば体験に足繁く通い、1~2年くらい、好き勝手に、織りたいように織っていました。
僕が体験で織るとなりでは、会員さんがタテ糸作りからオリジナルの作品を製作していましたが、「そんな細かい作業無理無理!」なんて思いながら、わさわさ、もじゃもじゃ、時にちまちま、織っていました。

そうして転機がやってきます。

キャンディ屋さんでの仕事を辞めることになりました。
オーナーとの確執、というと聞こえは悪いですが、どうにも僕の我が強すぎたのです。その後、オーナーとは街で会っても話をしますし、わだかまりは無いのですが、その当時の僕は、全然ダメで。。。
兎にも角にも、次のステージへ進まねば。
この道が無いのだから、違う道を歩かなくっちゃ。
そこで浮かんできたのが、手織りの世界でした。

織れば織るほどのめり込んでいく手織りの表現、工程。
タテ糸作りから自分でできるようになれば、どんなものが織れるのだろう。
そんな気持ちのまま、手織工房の会員になってやってみようと改めて門を叩きました。
そうすると、思いがけない言葉が聞こえてきたのです。

「うちのスタッフになってみない?」

つづく。